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木版画の世界を覗く ~世界で評価される日本の伝統芸術
日本の浮世絵師、北斎の「神奈川沖浪裏」はおそらく世界で最も有名な芸術作品の 1 つで、世界中の多くの人々が知っています。その作品に描かれた極めて繊細なディテールを見ると、木版画で描かれたものとは信じられないでしょう。今回の「Culture of Japan」シリーズでは、数百年にわたる木版画技術の継承に努めるアダチ版画研究所を訪れ、世界に大きな影響を与えた魅力的な伝統芸術について詳しく学びました。
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何世紀もの歴史を持つ日本の伝統技術で制作される 「木版画」 の世界に飛び込む
「木版画」は世界中で鑑賞される芸術であり、特に「浮世絵」は人気が高く、長い間多くの人々を魅了し続けています。
日本の木版印刷の歴史は何世紀も前に遡ることができます。その技法が中国大陸から日本に伝わったのは飛鳥時代 (550年~710年) で、韓国・百済王朝から伝来した経文印刷用の文字木版画が始まりとされています。
平安時代(794年〜1185年)になると、仏教経典の印刷が盛んになり、それが仏の姿を描いた絵画の印刷へと発展しました。その後、鎌倉時代(1185年~1333年)、室町時代(1336年~1573年)には、文字の印刷が初期のものながら印刷業として発展しました。
江戸時代(1603年~1867年)は、それ以前の戦乱の時代から平和な時代になり、庶民も書物や印刷された文字などの文化を楽しむことができるようになりました。このような娯楽には、文字だけでなく絵も含まれるようになり、そのうち絵そのものが鑑賞されるようになりました。こうした印刷物は木版技術によって大量生産が可能となり、簡単に、安価に、広く流通するようになったのです。絵はもともと白黒でしたが、徐々に色が加えられ、今日私たちが知っている鮮やかな芸術作品となり、それが現在では「浮世絵」と呼ばれています。
浮世絵とは?
「浮世絵」とは、江戸時代から明治にかけて描かれた風俗画です。江戸時代に活発に描かれた絵画様式のひとつです。当初は遊郭や劇場といった歓楽街が主な題材でしたが、次第に人物や風景、動植物などへと分野が広がっていきました。
浮世絵の生みの親は日本の絵師、菱川師宣であると一般に考えられています。彼の作品は浮世絵のもとになったと言われる一枚絵を普及させました。彼が描いたのは、美しい女性や印象的な歌舞伎役者、町の生活風景などです。それから約1世紀後、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」や歌川広重の「日本橋朝之景」など、世界的に知られるようになる浮世絵が生まれました。
浮世絵 ~世界的なブームとなった日本の芸術
この歴史ある芸術は、19世紀に日本のみならず世界を席巻し、現在も高く評価されています。最盛期にはクロード・モネやフィンセント・ファン・ゴッホといったヨーロッパの有名画家たちにも影響を与えたといいますが、なぜ浮世絵はこれほどまでに西洋で人気を博したのでしょうか。
アダチ版画研究所の中山周社長は、浮世絵が当時の西洋美術とは対照的な 「日本独特のもの」 だったからだと説明します。浮世絵は日本で発展し、日本人の生活から着想を得た芸術形態で、当時の西洋美術界で主流だった油絵とは全く異なるものでした。
浮世絵は、西洋とは異なる素材を使用し、日本独自の構図を取り入れることで、まだ多くの西洋人が経験したことのない新たな視覚的感覚を生み出しました。西洋の油絵具とは対照的に、浮世絵は水性の顔料で彩色され、キャンバスではなく厚手の和紙に印刷されるという点でも異なります。
中山さんは、アダチ版画研究所で摺られた復刻版浮世絵版画を見せながら、同研究所で摺られる作品はすべて人間国宝・岩野市兵衛氏が漉いた福井県越前産の和紙を使っており、丈夫で長持ちすると話してくれました。手触りもやわらかく、ただでさえ品格のある版画にさらに高級感を加えています。作品を手に取ると、紙から滲み出る気品が感じられました。
浮世絵版画ができるまで
浮世絵版画は、下絵を描く絵師、その下絵を元に版木に彫る彫師、完成した版木を用いて摺る摺師という三者の共同作業で制作されます。熟達した多数の経験豊富な職人が関わる手間のかかる作業です。それぞれの技術は高度な専門性が要求されるため、一人で何役もこなせるほど容易なものではありません、中山さんは言います。
絵師の描く版下絵
有名な浮世絵版画には通常、一人の作家の名前しかついていませんが、それはその作品の図案を描いた人に過ぎません。「絵師(えし)」は、「版下絵(はんしたえ)」と呼ばれる下絵を描き、それが木版画の制作工程や作品全体の骨格となります。有名な絵師には、葛飾北斎や歌川国芳など、世界的に知られる浮世絵師がいます。
版木を彫る 「彫り」
「彫師 (ほりし) 」 と呼ばれる熟練した職人が図案をもとに細部まで版木に彫り込んでいきます。まず板木に糊を塗り、絵師が用意した下絵を貼り付けます。彫師はまず、小刀を使って線の両側に切り込みを入れる作業を行います。
小刀で線の両側を彫り終えると、彫師は大きめの鑿(のみ)と木槌を使って、不要な部分を取り除く作業をします。彫師が版下絵に沿って彫り進めるにつれ、紙も木と一緒に削られ、版下絵に描かれた輪郭線だけが残ります。最後に「透鑿(すきのみ)」と呼ばれる小さな鑿で細かい部分を取り除き、最終的に「主版(おもはん)」が完成します。
一枚一枚が非常に緻密で精巧なため、通常、一枚の主版を作るのに最低でも一ヶ月はかかります。
色を付け、紙へ転写する「摺り」
主版を基に作られる色別に彫られた版木も完成すると、「摺師(すりし)」に渡され、摺師が版木に顔料を付けて紙に転写します。浮世絵の特徴である鮮やかな色は、すぐ出るものではありません。実際、浮世絵の豊かな色彩に達するには、少なくとも20日はかかります。摺師は、「とき棒」と呼ばれる小さなほうきのような絵具を運ぶ道具を使って、水で溶いた顔料を版木に塗り、次に大きな刷毛で全体に塗り広げます。摺師は経験を積むことで、顔料の量を正確に見極め、均一な版画を摺ることができるようになります。
「彫り」の過程で、彫師は版木の周りに「見当(けんとう)」と呼ばれる印を彫ります。これは摺師が版木のどの位置に紙を置けばよいかを正確に把握し、顔料を重ねていく際に版木の位置がずれないようにするためのものです。紙を版木の上に置き、「馬連(ばれん)」と呼ばれる特殊なパッドを使って顔料を紙に浸透させ、摺師は体重をかけて顔料が均等になるように全体に広げます。
摺師は版を重ねるごとに、うまく摺られているかを入念にチェックします。 和紙や版木は温度や湿度によって伸び縮みするため、版がずれた場合は摺師が「見当」を修正してから重ねます。この作業を、好みの色合いが出るまで20回ほど繰り返していきます。
アダチ版画研究所で復刻版浮世絵版画を手に取る機会があったのですが、裏面を見るように言われました。版画の裏側には顔料が鮮やかに残っており、紙にしっかりしみ込んでいることを示していました。裏面にはにじみはなく、きれいな線が職人技の正確さを物語っていました。私たちは、版画の裏側の少し淡い色合いさえも芸術作品として鑑賞できると思いました。
何世紀も続く伝統技術を将来に残すために
浮世絵版画といえば、昔の日本を思い浮かべるかもしれませんが、現在でも広く親しまれている芸術です。しかし、浮世絵版画を制作する伝統木版技術を存続させるには課題が多く、その主な要因は、印刷技術の高度化に伴い、木版で制作する仕事が減っていることがあげられます。それに伴い、彫師や摺師といった職人の数が減少していることです。中山さんから聞いたところでは、現在全国にはわずか10人程度の彫師しかいないということで、私たちは驚きを受けました。
アダチ版画研究所は、伝統木版技術という日本独特の技術の保存を目的とし、職人の育成と雇用に取り組んでいます。現在11人の職人が在籍しており、中には20年以上木版画に携わっている人もいますが、若手の職人も多数います。中山さんによれば、研修生はほぼ毎日稽古を続けて5年程度でようやく一人前といわれ、職人は習得した技術を使って、北斎や広重など江戸時代の浮世絵の復刻版を制作したり、現代アーティストのデザインによる新作を制作したりしています。
伝統的な木版画の技術と現代アートの融合
浮世絵のような伝統的な木版画が愛されていることは言うまでもありませんが、木版画はその様式に制約されるものではありません。現在、アダチ版画研究所は、現代アーティストとコラボレーションをして、伝統的な木版画の技術を用いた作品の制作をしています。この取り組みによって、現代に伝統技術を継承しているのです。ショールームには、浮世絵とは異なるモダンな作品が展示されており、それらも伝統的な技法で制作されていることに驚きました。
アダチ版画研究所のショールームで実物の木版画を鑑賞する
何世紀にもわたって伝統芸術を存続させることは容易なことではありません。中山さんに版画研究所が伝統木版技術を現代にどのように受け継いでいくのか尋ねると、「江戸時代の浮世絵と同じように、時代に合った今を生きる人たちが楽しんでいただける作品をつくることが重要と考えています。」とお答えいただきました。木版画の美しさは、実際に目で見ることで最もよく理解できます。東京・目白にあるアダチ版画研究所は、シンプルでありながら高級感のあるショールームを併設しており、実際の木版画を鑑賞しながら購入することができます。展示された木版画は壁一面に広がり、見るたびに目を楽しませてくれます。
ショールームでは、有名な浮世絵だけでなく、あまり知られていない浮世絵や木版画の技法を用いた現代木版画も展示されており、定期的に特別展示も行われています。私たちは壁にずらりと並ぶ壮麗な木版画の前で、見覚えのある作品を指さして興奮したり、初めて見る作品をぼんやりと眺めたり、一枚一枚に描かれた繊細なディテールをじっくりと鑑賞しながらゆっくりと時間を過ごしました。
ショールームには、作品が一覧になった小冊子があります。気になる作品があれば、その場で実物を見せてもらうことができ、気に入ったものがあれば購入も可能です。これらの作品はすべて研究所の職人によって作られています。本物の日本美術を手に入れる素晴らしい機会です。気に入った版画が在庫にない場合でも、増刷後に海外配送してくれるとのことです。
確かに北斎などの有名な伝統的な浮世絵が最も人気がありますが、中山さんによれば、美術愛好家を含む人々が、隠れた名品や現代の作家の木版画を探しに訪れることも多いそうです。
この研究所では、職人たちが目の前で木版画を制作する実演も随時行っています!私たちは幸運にもそんなデモンストレーションを見る機会がありましたが、その魅力的な工程を見ていると心が落ち着き、彫師や摺師の熟練した動きから目が離せませんでした。各工程には驚くほどの力が必要で、職人たちが事前にストレッチを行って集中状態に入る姿が興味深かったです。日本美術に興味のある方には必見です。研究所では今後のイベントや展示の予定を定期的にSNSにアップしていますので、ぜひ一度訪れてみてください。
世界的に有名な木版画の伝統技術を後世に残すために
木版画制作の各工程に注がれる驚くほどの緻密さと精巧さは世界中で高く評価されており、その芸術性の高さを示しています。何世紀にもわたって多くの人々に愛されてきたこの日本独自の芸術は、これからも長く続くことでしょう。木版画は日本の歴史と文化を理解する素晴らしい方法ですので、日本を訪れた際には、ぜひその美しさを実際にご覧ください(そして、もしよければ一枚買って帰ってください)!
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