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知られざる新潟の芸妓文化。古町芸妓とのお座敷を体験!

古くから港町として栄え、日本の北西部に位置する新潟市。ここは京都以外では数少ない芸者文化が残る場所でもあります。地元では「芸妓(げいぎ)」と呼ばれ、親しみやすい雰囲気で知られる彼女たちは、何百年にもわたって旅人を魅了してきました。今回は、芸妓文化の魅力に迫るため、選りすぐりの芸妓3名との特別なお座敷を体験してみました。

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古町芸妓とは?

江戸時代から新潟市古町にある花街では芸者が暮らし、芸を磨いています。京都の舞妓や芸妓は世界に有名ですが、新潟の芸妓はあまり知られておらず、その独自の文化がひっそりと現代まで受け継がれています。

日本一長い信濃川の河口に広がる新潟市は、かつて北海道と大阪を結ぶ日本海の「北前船」交易ルートの寄港地として発展しました。商人や船員たちは新潟市に立ち寄り、古町の賑やかな花街でひと時の休息と娯楽を楽しんだ後、再び航海に出て行ったのです。

当時、最大の歓楽といえば芸者のおもてなしだったため、古町にも旅人を迎えるために自然と芸妓文化が花開きました。日本各地の芸者と同じように、芸妓たちは白塗りの顔に美しい着物と豪華な簪をつけて客をもてなします。舞踊や唄、お座敷遊び、会話術など、様々な芸事を習得し、お座敷でそれを披露します。

最盛期にはおよそ400人もの芸妓が新潟で活躍しており、その規模は東京の新橋や京都の祇園に匹敵していたと言われています。

現代における古町芸妓

しかし、20世紀に入ると日本の近代化が進むにつれて娯楽の好みも変わり、芸妓文化は次第に衰退していきました。1980年代中頃には芸妓の数は60人ほどにまで減り、最も若い芸妓も30代後半になっていました。

衰退に歯止めを掛けようと、1987年に地元約80社が出資して柳都振興株式会社が設立されました。女性たちを雇い芸妓として育成するという全国初の株式会社組織の会社となりました。社会保険制度を提供し、芸妓の着物や鬘などに掛かる全費用を会社が負担しました。それから37年、柳都振興は毎年新入社員を採用し、また結婚して出産後も仕事を続けている芸妓もいます

現在、新潟で活躍している芸妓は20人未満ですが、これらの改革により新しい世代の芸妓が増え、今ではほとんどが20代から30代の若い方で構成されています。

歴史ある新潟市古町の花街を巡る

芸妓についてもっと知りたいと思った我々は、新幹線に乗り新潟市へ向かいました。新潟駅に到着すると、駅前では都会的な景色が広がっていましたが、信濃川に架かる立派な萬代橋を渡ると、石畳の道や伝統的な建物が次第に見えてきて、かつて港町として栄えた古町に辿り着きました。

・古町の伝統が凝縮された鍋茶屋通り

鍋茶屋通りにはその名の由来となった老舗料亭「鍋茶屋」があり、現在でも古町芸妓が活躍する数少ないエリアの1つとなっています。1846年から芸妓による宴会が催されてきた鍋茶屋。その3階建ての見事な木造建築と白塗りの外壁が当時の芸妓文化の栄華を物語っています。

鍋茶屋通りやその周辺の路地には伝統的な置屋や稽古場が立ち並び、その景観は京都の祇園を彷彿とさせます。ただ1つ違ったのは、観光客が全く見当たらなかったことです。

古町には鍋茶屋以外にも11軒ほどの格式ある料亭や割烹が点在しており、料亭や割烹を通じて芸妓のおもてなしを予約することができます。これらのお座敷は高品質のサービスや料理、伝統的な雰囲気などを持ち合わせ、古町の芸妓文化にふさわしい場所だけが厳選されています。我々は芸妓との貴重なお座敷体験をすべく、風情ある街並みに溶け込む格子造りの外観が印象的な「割烹 きらく」を選びました。

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割烹 きらくで古町芸妓との夕べを楽しむ

畳のお座敷に通された我々は、本物の古町芸妓に会えるという期待と緊張が入り混じった気持ちで準備を整えていました。ところが、芸妓のお二人が現れた瞬間、温かい笑顔と明るい挨拶でお座敷の雰囲気が一変しました。我々の緊張はすっかり解け、心地よくリラックスした空間になりました。

京都の舞妓や芸妓と同様に、新潟の芸妓も経験や年功によって階級があり、それぞれ呼び方が異なります。見習いの芸妓は「振袖さん」と呼ばれ、袖の長い振袖を着ています。経験を積んだ振袖さんは、「留袖さん」へ昇格し、袖を短くした留袖を着るようになります。より知識を深めるため、我々は振袖さんと留袖さんをそれぞれ1人ずつお願いしました。

今回いらしていただいた振袖さんは、明るくて魅力的な20代前半のいち弥さん。色鮮やかな振袖と髪飾りを身につけ、若々しく目を引く華やかな雰囲気がまさに振袖さんらしいです。この日の装いは、鳥の子色をベースに縁起物の柄が施された着物をまとい、頭には青い花を散りばめたような髪飾りに金魚を添えて夏の季節感を見事に演出していました。

いち弥さんとご一緒いただいたのは留袖さんの志穂さん。素人の我々でもこのお二人の違いは一目瞭然。志穂さんの控えめで上品な紫色の着物は彼女の格を引き立て、シンプルながら洗練された櫛や簪も雰囲気にぴったりでした。大人っぽく落ち着いた印象の志穂さんですが、心温かく親しみやすい人柄です。志穂さんといち弥さんのお二人に、今夜のお座敷を安心してお任せすることができました。

三味線と唄を担当してくださったのは、あおいさんです。若い頃に柳都振興で勤務し、2015年には古町芸妓として初めて独立を果たしました。あおいさんは、伝統的な白塗りや日本髪をせず、志穂さんといち弥さんからは親しみを込めて「お姐さん」と呼ばれています。

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芸妓の会話術で楽しむお酒の席

芸妓のおもてなしに欠かせないのが会話術。そこで、まずは緊張をほぐすために、こんな質問をしてみました。「なぜ芸妓の道を選んだのですか?」

志穂さんはこう答えてくれました。「子供の頃から着物について勉強するのが好きで、高校を卒業した後も着物や日本の伝統文化を学べる仕事に就きたいと思っていました。そこで芸妓が私にピッタリだと気づいたのです。」

一方で、いち弥さんは芸妓文化とはまったく縁のない、普通の女子高生として育ちました。

「新潟育ちなのに、古町芸妓の存在すら知りませんでした。高校を卒業する1ヶ月ほど前に、母から志穂さんや他の芸妓さんの写真を見せられて、その瞬間、自分もここに一緒に写っている姿が頭に浮かびました。それですぐに応募して、芸も何もないまま面接を受けました。その後、必要なことは皆さんに教えていただきました。」

志穂さんといち弥さんの上品な話し方はとても心地よく、聞いていて楽しかったです。発声や会話のペースに配慮しつつ、自然な会話を心がけていると感じました。また、日本語が母国語でない我々にもわかりやすい言葉で話し、基礎的な英会話も問題なくこなしていました!ただし、あおいさんからは、よりスムーズなやり取りを希望する場合は、通訳を雇うことをお勧めされました。

芸妓との時間を最大限に楽しむための心得

新潟は昔からさまざまな人々が行き交う場所だったため、古町芸妓も対応力は抜群です。堅苦しいしきたりは意外と少なく、芸妓の皆さんはとてもおおらかで親しみやすい雰囲気を持っています。

「日本の他の花街と比べると、ここ古町はとてもフレンドリーなんです!」と志穂さん。「厳しかったり怖かったりすることは全くありませんし、何かわからないことがあれば、ぜひ私たちに聞いてください。」

新潟の芸妓はお座敷の内容を事前に決めることはなく、お客様の様子やその場の雰囲気に合わせて対応を考えます。「新潟には芸妓のためのマニュアルはありません。その代わりに一期一会を大切に、その時間を楽しんでいただけるよう全力を尽くします。ずっと写真撮影したい方、舞踊を堪能したい方、ただ会話とお酒を楽しみたい方など、いろいろなお客様がいらっしゃいます。」とあおいさんは説明してくれました。

「実際、お客様からご希望をはっきり言っていただけると嬉しいです。その方がお客様のご期待にお応えできますし、後悔なく楽しんでいただけますから。」

ただし、あおいさんからは時間厳守のお願いがありました。芸妓の皆さんは予定が詰まっているため、決められた時間内で撮影を済ませ、終了後に引き止めないようにしましょう。また、日本では室内で靴を脱ぐのが一般的ですが、料亭のお座敷では素足は避け、靴下を履くのがマナーとされています。芸妓の皆さんはお客様の服装を気にしませんが、古町のお店は格式高いことが多いため、ディナーにふさわしい装いを心がけた方が無難です。床に座ることを考慮して、あまりタイトな服は避けましょう。

芸妓のおもてなしにはお酒も欠かせません。米どころの新潟といえばやはり日本酒が定番ですが、ビール、ワイン、ソフトドリンクなどお好みの飲み物で楽しむこともできます。芸妓の皆さんはお酌の技が素晴らしく、志穂さんといち弥さんも我々の盃が空にならないよう気にかけてくれました。志穂さんといち弥さんにもお返しに一杯お勧めすると、とても喜んでいました。

唄と舞で紡ぐ新潟の歴史

1時間ほど会話とお酒を楽しんだ後、志穂さんといち弥さんに伝統的な踊りを見せていただきました。あおいさんの三味線と唄に合わせ、芸妓のお二人は扇子や手拭い、四つ竹などの小道具を使い、表現豊かに舞を披露してくださいました。

芸妓には代々受け継がれてきた独自の唄があり、その多くはかつて港町として栄えた新潟の四季や風習、生活を題材にしたものです。通常のお座敷では春をテーマにした唄とその季節に合わせた唄(我々の場合は夏でした)が披露されます。他にもいくつか定番の唄も観賞させていただきました。中でも「新潟おけさ」は、もともと九州の船員たちから受け継がれたものだそうです。

歌詞の内容までは理解できませんでしたが、志穂さんといち弥さんの優雅で流れるような動きとあおいさんの美しい歌声が調和し、我々はすっかり魅了されてしまいました。いち弥さんが黄色とオレンジの鮮やかな扇子を持って踊りを始め、その後、志穂さんが柳に流水の模様が描かれた団扇を手に加わると、まるで江戸時代の古町にタイムスリップしたかのような光景が広がりました。柳並木の川沿いを歩く芸妓の姿は、当時の古町では日常的な風景だったことでしょう。

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楽しくてちょっぴり屈辱的なお座敷遊び

もう1つ忘れてはいけないのが、お座敷遊びです。大体の遊びはお酒を飲みながら楽しむものですが、お酒の代わりにお茶やソフトドリンクでも参加できます。古町芸妓はお酒に強いことでも有名で、その小柄な体格にもかかわらず酒合戦でも引けを取りません。もちろん負けてしまった場合は、素直に敗北を認めますが、挑戦されたら最後までお猪口を手放すことはありません。

古町のお座敷遊びは、日本各地の花街でも知られている定番のものが多いです。遊びそのものはシンプルですが、意外と集中力が必要で、お酒が入っているとさらに難易度が上がります。まずは手始めにいち弥さんとじゃんけん合戦。じゃんけんとは言え、お座敷では一筋縄ではいきません。志穂さんがそれぞれの回で「勝者」「敗者」「引き分け」のいずれかを呼び、その結果に該当する人がお酒を飲むというルールです。あっという間にお酒がなくなり、もう11本注文したのは言うまでもありません。

次に遊んだのは昔からある「金毘羅」と言う定番のゲーム。まずは、座布団の上にお猪口を逆さまに置きます。芸妓が一斉に歌い始めたら、そのリズムに合わせて順番に手を開いた状態でお猪口に触れていきます。もし誰かがお猪口を取ったら、他の人はリズムを崩さずにお猪口があった場所にグーの手で触れます。最初は簡単に感じましたが、テンポがどんどん速くなっていき、最後にはまんまと引っかかってしまいました。敗者はもれなくお酒を飲んでゲーム終了となりました。

芸妓とのお座敷遊びは他にもたくさんあり、どれもルールは簡単なので誰でも楽しむことができます。言語の壁があっても、ゲームを通じてすぐに打ち解けられるのが魅力です。もしご希望のお座敷遊びがあれば、予約の際にお店に伝えておくと、芸妓の皆さんが準備してくれます。

新潟の芸妓のおもてなしはどうやって予約するの?

今回我々が体験した芸妓のおもてなしは、柳都振興のホームページに記載されている12ヶ所の料亭や割烹から選んで予約ができます。場所が決まったら、お店に直接電話して、芸妓の手配をしてください。残念ながら日本語のみの対応になるので、外国からのお客様は日本語が話せる方やツアーガイドなどを通じて予約してください。

古町芸妓は1人あたり最短1時間13,860円から予約可能で、10分ごとに料金が加算されます(お店での食事代は別途かかります)。芸妓のおもてなしを存分に体験されたい場合は、2〜3人に対して1人の芸妓を手配するのがお勧めです。舞踊の鑑賞は、弾き語り(三味線・唄)と踊りを担当する芸妓がそれぞれ必要なため、最低でも2人の予約となります。この他にも振袖さんや留袖さんを指定し、お座敷遊びや食事に関する要望なども予約時に相談することができます。

また、追加料金にて新潟県内の他の飲食店でも芸妓のおもてなしを体験できます。加盟店のANAクラウンプラザホテル新潟では、宿泊客向けに館内での芸妓体験も提供しており、夕食とともに芸妓のおもてなしを楽しむことができます。

ANA Crowne Plaza Niigataを予約

古町芸妓は、8月中旬に開催される「新潟まつり」をはじめとする新潟市内のさまざまなイベントにも定期的に出演しています。柳都振興のインスタグラムでは芸妓の活動が随時更新されているので、新潟滞在中にイベントがあるかぜひチェックしてみてください。

密かに息づく新潟の芸妓文化

「割烹 きらく」での古町芸妓とのお座敷体験は、あおいさん、志穂さん、いち弥さんのおかげで大満足でした。彼女たちの洗練された佇まい、美しい唄と舞、途切れることのない楽しい会話、そして魅力的なお座敷遊びを通して、最高のひと時を過ごすことができました。和やかで温かい雰囲気の中、リラックスして楽しむことができたのもよかったです。今では芸妓さんのワークライフバランスも向上し、若い新規の芸妓も増えているため、古町芸妓の文化がこれからも受け継がれていくこと期待できます。もし日本を訪れる際に、芸妓とのお座敷体験お考えなら、ぜひ風情あふれる古町のお店を予約してみてください。

この記事に掲載されている情報は、公開時点のものです。

ライター紹介

Steve
Steve Csorgo
オーストラリアのメルボルンで生まれ育ち、現在は新潟市在住。趣味は、地酒を見つけること、読書、そしてできるだけ多くの日本国内を旅すること。日本の好きなものは、温泉、史跡、手つかずの自然。伝統工芸品、風変わりだが魅力的な町、興味深い地元の話などを書くのが好き。
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